こんにちは。
我が家で連日のようにパンを焼いて下さる熱心なパン職人の方がおられます。
その名は、もえまるさんです。
彼女はここ1週間ほど、ほぼ毎日のようにパンを焼いておられます。
彼女は私たちにその行動で示してきました。
毎日のようにパンと向き合い、毎日のように成功と失敗を繰り返し、試行錯誤して葛藤して。
その結果、今があるのだと。
時に強力粉が無くなれば、夜な夜な町中のスーパーを巡り強力粉を探し回ることも。
私の実家で長きに渡り眠っていたNational(現・Panasonic)製のホームベーカリーを手にした彼女はその手作りパンの制作にさらに拍車をかけていきました。
今回はそんなひたむきな彼女の作る手作りパンとその制作過程について取材しました。
彼女の作るパンは主に3種類。
ちぎりパン、バターロール、そして食パン。
シンプルながら確かに感じるその深みと口の中で広がる小麦の香り、そして自然な甘さが特徴の彼女のパン。
私はそのパンを、おそらく最も近くで感じてきた。
彼女の初めてのパンとの出会いは1年以上前。
私の帰りが遅いがために制作を始めたのがきっかけだ。
当時、彼女が最初に作ったパン。
それが、現在の彼女の最も自信のあるパン。
ちぎりパンだ。
初めて彼女の作ったパンを口にしたとき、私は確信した。
”彼女の作るパンは今後必ず、世界を獲る。” と。
そこから1年以上の月日が流れ、彼女は進化した。
まず作り上げたのは原点回帰のちぎりパン。
もちろん美味しかった。
制作過程において、生地の丸みを重視する場面に彼女のかわいらしさが垣間見えていた。
丸い生地を私に見せつけてくるかわいらしい彼女。
だが、焼きの工程に入るとその目つきは一変する。
190℃のオーブンで約15分。
それが彼女の一日で最も神経を研ぎ澄ませる時間なのだ。
もちろん、夫である私でさえその時間に妻である彼女にちょっかいをかけるなどという行為は許されない。
一日においてその時間のみ、妻と夫ではなく、パン職人と顧客。
その関係性へと一変するのだ。
一方、生地のこねの工程においては、寂しがりやな一面も持ち合わせている彼女はリビングの椅子をキッチン横に用意し、そこに私を呼んでスマホを弄ばせつつ、自身と会話を楽しませながら時間を潰させるのだ。
ここで重要なのは、夫婦の時間を共有すること。
私の妻でありパン職人でもある彼女の作り上げるパンはこの時間の充実感でさえもその出来に反映されるのだ。
ここも大事な工程の一つ。
決して無碍(むげ)にはできない。
その後も彼女は幾度となく試行錯誤を続けた。
時には、砂糖と塩の分量を間違える、こねが足りずカチコチのパンを焼いてしまうなどの幾つもの失敗を重ねた。
もしそれが私なら、途中で投げ出すこともあったかもしれない。
だが、彼女は違った。
失敗しても決して諦めることなく前進を続けた。
その失敗を失敗にせず、成功への道筋の一つとしたのだ。
そして、作り上げたのが彼女の本気のパン。
ちぎりパンだ。
ホームベーカリーと百均のパン型を導入した彼女の焼き上げたちぎりパン。
最高のふわふわ感と小麦の香り、自然な甘みが食す者の胸打つ逸品だ。
これには某子供向けアニメ、アンパ○マンに登場するあのパン作りおじさんも思わず脱帽である。
焼き前の工程
焼きの工程。
焼けたちぎりパン。
初めて納得のいく完璧なパンを作り上げた彼女の瞳が心なしか潤んだようにみえたこと、私は間違いではなかったと自信をもって言えよう。
その夜、寝る前にも関わらず二人で出来上がったふわふわのちぎりパンを頬張ったことは私の人生において最も素晴らしい思い出であり、最もかけがえのない経験となったことはもはや言うまでもない。
そして彼女は続けて次の作品を作り上げる。
それがこの世で最も人々に愛されているパン。
食パンだ。
もはや国民食とも言えるほどの地位を確立したこのパンに我々は敬意を払いつつ、その完成をホームベーカリーに託して朝を待つこととなった。
そして出来上がったのが今日。
5月17日(日)AM7:00だ。
次の日の朝。
タイマーをセットしたそのホームベーカリーとの約束の時間に、我々は既にしっかりと目を覚ましていた。
——その朝、30分前に目を覚ました我々は少しばかり完成を待っていた。
それはまるで、付き合いたての高校生のカップルが初めてのデートで待ち合わせをし、早く着いた側がソワソワしながら相手を待つあの時間と酷似しているとさえ思えた。
そして、永遠のように長く感じるこの時間は、気づけば一瞬で過ぎゆくものである、
ピーッという軽快な音と共に、その時は訪れた。
待ちわびたその時間に、恋人(ホームベーカリー)との再会を果たした我々は迷わず蓋を開けた。
そして、そこにはあったのだ。
我々の思い描いていた幸せの形が。
それを感じたのは、ホームベーカリーの窯へ材料を流し込んだあの時。
「この量で大きく焼けるのか?」
不安だった。
もしかして、小さな小さな食パンとなってしまうのではないか、Panasonicの前身であるNational製であり私の実家の地下収納に長年眠っていたホームベーカリーが果たしてその役割をきちんと果たすことが出来るのだろうか。
そんな不安が確かにあった。
だが、その不安は蓋を開けたその瞬間に彼(ホームベーカリー)への懺悔と自責の念へと変わっていた。
完璧な焼き上がり、完璧な香り。
我々の心は既に彼の作り上げた食パンへの愛でいっぱいであった。
そう、それはまるで、彼の焼き上げた釜から溢れるほどに膨れ上がった食パンの様そのものであったのだ。
出来上がったこの食パン。
さあ、窯から出そう!
そう思った我々は窯を取り出した。
しかし、ここで一つの問題が生じた。
・・・パンが、外れないのだ。
何度も何度もトライする。
しかし、パンは外れない。
この時、朝の7時過ぎ。
我々は昨晩も、決して早くない時間に就寝していた。
そう、少し眠かったのだ。
そんな眠気を感じながら、パンを外す役目は男である私に託された。
私は思い切り振った。
それはもう思い切り振った。
その行動をのちに後悔することになるとこの時、我々は気付くことはなかった。
その力任せな行動が、彼(ホームベーカリー)の逆鱗に触れたのだ。
思い切り窯を振った私は、アツアツに熱されたその窯に右手首を触れてしまったのだ。
「熱い!!」
その瞬間、私は火傷した。
火傷なんて、もう最後にしたのがいつかさえ覚えていない。
私は後悔した。
もっと大事に扱えばよかった。
もっと大事に、パンと向き合えばよかったと。
負傷した私の右腕は、薬の塗付とガーゼを余儀なくされた。
対処法としては水ぶくれを潰さぬようにして薬の塗付、そしてガーゼで保護。
これからしばらくはこのように手当てしなければならないという。
しかし、焼きあがった食パンはそんな私の心に陰る雲を打ち消す程の素晴らしいものであった。
初めて作った自家製食パンに我々は歓喜した。
材料を投入しスイッチオンで出来上がるこの食パン。
我々が焼きあがるまでにかけた時間は盛り無しで10分にも満たないだろう。
コスパ最高のパン。
それが食パンだった。
ただ、ちぎりパンもほぼ同時に作製されていた為、まだ二人で一枚しか消費できていない。
我々はこれらのパンを、彼(ホームベーカリー)への感謝の気持ちを噛みしめながらゆっくりと味わうことにする。
さて、なぜここまでの長文になってしまったのかは私にはわからない。
今思えばパン職人・もえまるさんへ取材もしていないし、彼女の仕事の流儀などもはや関係なくなっている。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとう。
心より感謝します。
今後とも、我々夫婦をよろしくお願いします。
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